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「ありふれた偶然」
2020 6月
西 山 英 夫
2016年の熊本地震は、私たち県民にとって生涯で最も大きな災難といえる出来事
でした。そして今年、それを超えるような世界的な事象がまた起こるとは、さすがに
想い至りませんでした。
この数ヶ月の間に世の中では新しい生活様式という、テレワークやリモート会議、
オンライン授業等が盛んに勧められ、新しいコミュニケーションのかたちが生まれよう
としています。安全性や効率性への志向から、今の社会には自明のことかもしれません。
ただ、私にはどうしても気になることがあります。世界の複数の識者も言っていますが、地域、職業、貧富など人々の様々な分断や排他性が加速しかねない、寛容な人間関係や
社会の在り様への危惧です。SNSでの付き合いやPC上での業務には、メカニカルな
リスクも存在します。面倒なことも多いながら、直接人と相い対する時間や空間の
存在価値に、建築家としての私は今も希望を持っているのですが。
以前一度だけお目にかかったことがある脚本家の山田太一さん。
氏の10年程前の作品に「ありふれた奇跡」というTVドラマがありました。
平凡な市井の人々に起こる出来事や心情を、ていねいに紡いだ佳作でした。
私たちの日常や未来は、計測や予定調和とはいかない、殆どありふれた偶然の連続
ではないでしょうか。私は、家に独りでPCやスマホに向かって作業をするよりも、
例えば通勤通学の途中に出合う思い掛けない発見や、憧れの人を垣間見る学生のような、
そんな偶然と隣り合う暮らしの中に、生きる喜びを感じてしまいます。
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