建築を問い続ける人生
2023 11月
熊本県立大学公開講演記録
西 山 英 夫
1 建築というものについて
・何のための建築か?誰のための建築か?
建築は手段、目的ではない。
例えるなら、理系の技術や知識を用いて、文系の喜びや幸福感を創る。
人間のための場所を創る(相互の止揚の必要性)。
人間について考えるということ → 人間の観察が大切。
建築家は、人間と人間の営みに興味がなければいけない。(槇文彦さん)
建築は、「物」かつ「道具」や「器」、最終的に物としての良し悪しが問われる。
建築は、考え方、作者の意図が込められている。
建築物に、唯一の正解は無い、多様な解(釈)が在る(在って良い)。
建築は、多様な評価や批評が出来るが、言葉だけで建築は出来ない。
・設計のプロセスとオルタナティブ・デザイン
設計プロセス事例の映像提示と解説
・ビルディングエレメントの分節と統合(大きな要素と小さな要素がある)
ビルディングエレメント、 境界(閾)をどのように作るのか?
分節・アーティキュレーション
床、壁、屋根、窓・・建築を各々の要素に分解し、その意味と役割を把握。
統合・インテグレーション
その意味と役割の上に、物としての効果と価値をまとめ上げる。
その他の一般的な意味として、
分節と専門分化の良し悪し(専門家10人↔︎ ひとりの人間(性)
デカルト 方法序説(問う、要素還元、帰納、裏付け) → 機能分化を追求した近代西欧文明?
自然とは、どこからどこまでが自然ということのない切れ目のないもの。
人生や社会を統合するための教養(リベラルアーツ)と眼の必要性。
2 クリエイティブということ
・好奇心と、自分への問いかけを
普段の日常の中で、見えるもの(現象)と見えないもの(本質)がある。
見たいものだけを見ずに、見えているものの向こうに何を見つけるか?
想像(妄想)する力が必要。
何故、どうして? 分からない、知りたい、見付けたい!
自身や社会への、作者の素直な問いかけと格闘が芸術の本質では?
(格闘→ 作者の反骨、プレッシャー、もがき、希望)
クリエイションとは、不完全(未完成)で終わりのない不断の問いかけ?
誰の人生の上にも、存在すること、出来ることでは。
・発明より、気づきと発見的な方法を
吉阪研究室、発見的方法(演繹ではなく帰納的な方法論)の勧め。
見つかるものは、多様で不均質で重層的な世界の豊かさか?
偶然の発見や気付き、数や量を積み重ねることから見つかるものがある。
何が良いのか?、これで良いのか?、価値判断の物差しを築くべき。
観ること、聴くこと、想像すること・・、 学を絶てば憂い無しか?
3 人間は、脳ではない
・A(G)Iは、、脳の代替ツールか?、諸刃の剣か?
50年後の未来は誰にも分からないが、A(G)Iに幸福を頼られるのか?
数値や(ビッグ)データで測れるものと測れないものは何か?
人間の持つ、非合理性や不完全性、そして直感はA(G)Iに可能か?
A(G)I作品に感動するか?、その場合、何に誰に感動するのか?
匿名性のないA(G)I作品や製品は、固有のブランドになり得るか?
A(G)Iのアウトプットデータを価値判断する、HI能力の必要性を。
・身体性とクラフトマンシップの魅力
今は、19世紀のアーツ&クラフト運動時(Wモリス・・)に近似かも。
駒を打つ時の棋士の中指と人差し指のエレガンス。(阿川佐和子さん)
月を想い妄想する、桂離宮のしつらえのセンスや気品。
身体の五感(身体感覚)を通して初めて感じられるものがある。
安易な既製品(プロダクツ)だけでは、スペックは作れても上質は作られない。
ラグジュアリーには、クラフトマンシップが欠かせない。
相互の折り合いの見つけ方を。
結局、人間とは何か、人間らしい魅力とは何かの問いかけ?
4 寛容な暮らしと社会を
・エクスクルーシブ(排他性・利己)よりインクルーシブ(包摂性・利他)を。
コンビニ、ドラッグストア、レンタルショップ・・ルーティンな社会。
分断、差別、承認欲求・・他者との共感・共生をどのように獲得するか?
白か黒か、二項対立ではない、程良いいい加減を(ラテン的な)!
利己 ↔︎ 利他、他を排除しない接続のバッファや時空間を目指すべき。
画一的な街や住宅より、曖昧な余白や親近感のある環境と建築を。
建築は、住む人使う人の人間性を包含する(べき)。
食べることへの「食育」のように、暮らすことへの「住育」の必要性。
・多様で緩やかな不連続統一体へ
各々の相互矛盾やスタイルの差異を超えて、一つに結びつく。
個々のアイデンティティを保証しつつ、さらにそれ自体アイデンティティを
もつ一つのまとまりに統合する。
暮らしや環境の良質なブリコラージュを(歴史、分化、習慣・・蓄積の価値)。
日々のささやかな発見と、ちょっとした小さな感動をたくさん。
吉阪隆正、不連続統一体 八王子の大学セミナーハウス
5 喜びと幸福感のデザインや建築を
・P.ブルデューや吉阪隆正の眼
その人がその人である理由、ディスタンクシオン、ハビトゥス。
文化資本、文化の受け留め方の態度と差異が、生き方を規定する。
家は、住む人の精神のかたち。(谷川俊太郎さん)
着ることは、生きること。(有田正博さん)
ファッションは、食べることに近いくらい大事なこと。(川久保玲さん)
建築を考えるということは、生き方を考えること。
生きて(活きて)いると思える、喜び(感動)が生まれる道具(器)としての建築を。
美味しいお茶を飲むための器を。(小堀哲夫さん)
アブラハム・マズローの欲求5段階説と、吉阪の第一生活~第三生活。
第三生活(こうありたいという理想に近づこうとする努力の営み)。
・マクロな時間軸や空間軸の世界観を
事象を俯瞰して見る ということ。
建築家というのは、仕事や職業というよりも「生き方」だと思う。(竹山聖さん)
どうやって生きていくか ↔︎ どのように生きるか
(どうやって建築をつくるか ↔︎ どのような建築をつくるか)
歳を重ねるのも、そう悪くない、時分の花。(世阿弥)
50~60~70歳、人(自分も)は変わる(り得る)。(伊東豊雄さん)
いつの時代も、今が最先端の文明社会、そして時代や価値は常に移る。
人生を、浅く生きるか、深く生きるか?
オプティミズム(楽観的)ということ、正解は無い ということ。
まとめ
どんな建築があっても良いと思う、真剣に人間と向き合い、
人が生きることを後押しするような建築ならば!
人間に興味を持って!
世界をよく観て!
これで良いのか、自分は何者か? 問い続けて!
自分を大切に、そして利己から利他へ!
何をやりたいか分からないなら、人が喜ぶことを仕事にしたら良い!
建築の学びは、何にでも適応が可能!
偶然の必然、だから面白い!
正解が有るかは分からない、世界は相対的!
ジェネラルな見方の出来るスペシャリストになって!
師を持つ、友を持つ喜び、論語?
カフカの「城」、真理を探し続ける人生は続く。